K.619 小カンタータ「無限の宇宙の創造者を崇敬する君らよ」

最近たまたま聴いてとてもいい曲だった。ピアノ単体で聴いても長調から短調に転調するときの緊迫感、劇性、イ短調の場所では、魔笛で最も有名なアリア「わが胸は復讐に煮えたぎっている」や未完のレクイエムではメロディと通奏低音が完成していた「怒りの日」にも近接した和声が聴こえてくる。
ピアノ伴奏は、ケルテスが指揮したフリーメイソンのための作品集でピアノ伴奏されたゲオルク・フィッシャーの伴奏がその解釈を含めて素晴らしい。この曲は本来テノールが歌うのだけど、個人的にはソプラノ偏愛者らしく、クライバーが指揮した「トリスタンとイゾルデ」でイゾルデを歌ったマーガレット・プライスがよかった。テノールであれば、ルネ・コロ、ペーター・シュライヤー辺り。ソプラノであれば、ルチア・ポップキャスリーン・バトルバーバラ・ボニーが適任だと思うのだけど、録音の記録はなし。マイナー作品だからか。

マーガレット・プライスの歌声が入ったCDの海老澤敏の訳にはこうある。
Liebt Ordernung,ebenmass und Einkang! 秩序を、調和を、そして諸音を愛せ!
Liebt euch selbst und eure Brueder!  汝らを、汝自身と汝らの兄弟たちを愛せ!
Verstandeschelle eure adel! 治世の輝きは汝らの気品となれ!
Reicht euch der ew'gen Freundschaft Bruderhand, 永遠の友情に満ちた兄弟の手をさしのべよ、
die ner ein Wahn,nie Wahrheit その手を汝らからかくも久しく遠ざけていたのは、
euch so lang entzog. 真理ではなく、ただ狂気であった。

Zerbrechet dieses Wahnes Bande!    かかる狂気のしっこくを打ち破れ!
Zerreisset dieses Voruteiles Schleider! かかる偏見のヴェールを引き裂け!
das Menschheit in Sektiererei verkkleidet! 人びとを宗派のうちに覆い隠している衣を!

Waehnt nicht,dass wahres Unglueck 誤って思うな、
sei auf meiner Erde. 真の不幸がわが地上に存するなどと!
Belehrung ist es nur,die wohltut, 啓蒙のみが喜びを与えてくれるのだ。
wenn sie euch zu bessern Taten spornt; もしそれが汝らより善き行為へと励ますものなら。

レーゲンスブルクの分団「3つの鍵」に属す熱心なフリーメースン活動家であったツィーゲンハーゲンは、人間同士、および人間と自然との関係から生ずる本然的な諸関連こそが、人間的幸福を導き出すはずとの信念に基づき、既存の宗教と教育の根本的な改変を希求する急進的な啓蒙主義者だった。こうした思想がルソーと百科全書派の影響を受けたものであることはいうまでもない。どちらかといえば、偽善的でそらぞらしいそのテクストに、しかしモーツァルトはあくまで、「人道主義的様式」の誠実な音楽を響かせている。

モーツアルト作品解説(K619)

この曲の作詞家でもあり依頼者でもあるツィーゲンハーゲンはこういう人物。私は偽善的でそらぞらしいテクストだと思わない。この歌詞から抜き出した部分は、仏法と呼応するからだ。


iEでみるとなぜかグリーンバックに。