シェーンベルク グレの歌 サイモン・ラトル インタビューから

400人関わっているが、世界で最も大きい「弦楽四重奏曲」である。
作曲した時、若干26歳。管弦楽作品の作曲経験0。シュトラウスマーラーをすべて包含した非凡な才能を持った人が生み出しだ作品。この作品はあまりにも大掛かりで、後の彼に大きく影響していること。
彼の作品は、すべてこのようにして響かないといけない。
後にブラームスのように響いても、いつも、非常に官能的な側面がある。彼の険しい顔つきとは結び付かない雰囲気。

ここで茂木健一郎氏の天才や秀才像と一致する。
それは容姿と作風のギャップである。シェーンベルクは、旧来の器楽曲の枠組をグレの歌といった長編の歌曲に入れるところは顔立ちそのものと言えるかもしれない。しかし彼は、誰よりも、甘く耽美な曲もかける人だ。
同時代人のクリムトは、妖艶な人物画の名手だけども、顔立ちはイケメンからほど遠い。彫りが深く険しく気難しい印象さえある。これと似てはいないだろうか。


ヴィーンに溶け込んだ芸術家はいないからこそあれだけの数の天才を生んだ。ゆえに誰もが反逆者。シェーンベルクはこの時代を象徴する人物であり、カンディンスキーと同じ特色を持ち、クリムトの官能的で派手な色と形を連想する。
魅力を感じるところは、この作品を演奏すると、13年後に書かれた部分がどこなのか良く分かること。
非常に面白いことは、速いテンポの音楽のおおくが、まるでアニメ音楽に聴こえること。代表としては、"トムとジェリー"を担当したスコット・ブラッドレー。"道化のクラウス"の最後の部分は、猫とネズミが走り回る調べに聴こえる。

そう、この場面のどんどん変わりゆく音の動き、コケティッシュさ、諧謔さは、トムとジェリーの世界そのもの。


オリヴァー・ナッセンといった人たちは、机の上にいつも"グレの歌"のスコアを置き、作曲に関するヒントがすべて詰まったこのスコアを、旅行中も手放さない。
この作品は、フランス的な感性と細やかさを持っている。

それは、この曲の冒頭が、ラヴェル「ダフニスとクロエ」第3部 夜明けのようなオーケストレーションが施されていること、後の交響詩ペレアスとメリザンド」において、ドビュッシーが好んだ全音音階、メシアンが述べた移調の限られた旋法第1法が使われいることに見えてくる。本当かはわからないが、当時のフランス音楽の動向は知らずこうしたという。これが本当なら自ら発見していたこととなり、改めて驚嘆する。この曲はオーケストレーションの教科書。していても素晴らしいなと思う。オーケストレーションのベースは、ラヴェル風にしたR.シュトラウス。おーけすとマにおけるマーラーの影響が見えてくるのは室内交響曲第1番。ここでようやくマーラーを基にした音色旋律が出始める。
この傾向は、コルンゴルト、シュレーカー、ツェムリンスキーの同時代作品にも見られる傾向で、世紀末ヴィーンにおけるトレンドであった。これはアメリカの映画音楽、アニメ音楽に受け継がれていく。


この作品で得最も意味のあること、中央ヨーロッパ文明の50年を、現在にも台頭できる内容に、完全に変化した点。間違いなく、現存する最も美しく表現豊かな音楽の音楽のひとつ。曲の中で、調性システムから、分裂を始める様を聴きとることができる。
この作品は、人間の習性、嫉妬、背信、信仰に関する作品、最後に愛に行き着く。"トリスタンとイゾルデ"に似ている。ヴァーグナーは、過去に存在した最も偉大な作曲家のひとり。シェーンベルクは。より人間味溢れる、心温かい寛大な人。それはこの作品のとてもコケティッシュところにでる。この作品の最後は、非常に感動的で、特別で音楽史上に間違いなく残る、素晴らしい日の出。