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「アジアの世紀」の光と影


 米国の保守系シンクタンク「ケイトー研究所」(Cato Institute、リバタリアン)の上席研究員であるダグ・バンドウ(元レーガン大統領特別顧問)が、外交政策雑誌「ナショナル・インテレスト」に「アジアの世紀が来た」(The Asian Century)という論文を書いた。最初の外遊でアジアを歴訪したヒラリー・クリントン国務長官への、歴訪前の忠告というかたちをとっている。

 この論文でバンドウは「米国の覇権はすぐには失われそうもないものの、覇権の終わりは、多くの人の予測よりは早く訪れるだろう。21世紀はアジアの世紀になりそうだ」と書き、その上で、日韓などに対して彼がかねてから言い続けてきた「バンドウ節」とも呼ぶべき大胆な主張を展開している。


バンドウは、自国に依存し続けようとするアジア諸国の姿勢を嫌っており、(中略)


米国の良いところは「人に頼らず、自分で頑張ってみる」という独立精神が旺盛なことだ。リバタリアン(自律論者、小さな政府主義者)は、この米国の理想を特に重視する。日韓では、親米派ほど対米従属に固執するが、バンドウの主張を読むと、実は対米従属は独立精神に欠け、米国から何も学んでいないことがわかる。

 日本の右翼(右派、民族主義者)の多くが、表向きは「民族主義」を掲げつつ、実は正反対の、日本人を腐らせている対米従属体制を維持するための言論を繰り返している。日韓の対立を扇動するのも、日韓相互の対米従属策の一部である。右派は対米従属を棄て、日本人の民族的な自立心(精神的強さ)の回復をうながすバンドウを支持し、朝鮮人を敵視せずに日韓協調を目指すべきである。

 最近の米国が発する覇権衰退のにおいをかぎつけ、北朝鮮金正日政権は、脅されたくなければ金を出せと言わんばかりに、日米韓の側に対し、強硬姿勢やミサイル試射準備を見せている。米国は、北の強硬姿勢を放置しているので、対米従属の日韓も、右へならえで北の強硬姿勢を無視している。自立重視(主体思想)でやってきた北は、そんな日韓を馬鹿にしている。

 北から馬鹿にされたくないのなら、日韓は、たとえば米国抜きの日韓合同軍事演習を北朝鮮沖の日本海で行うなどして示しをつけ、その上で北との外交を再開するのがよいが、こうした主張は「好戦的で違憲」と却下される。護憲思想も、対米従属の正当化に利用されている。



日中は売れ残り米国債を買うか、ドルを棄てるか


激しいバンドウ節とは裏腹に、実際にはクリントン国務長官のアジア歴訪は「あいさつまわり」「米国の主張を強く出さず、アジアから話を聞くことに専念した」と評されている。むしろ逆に、今回は米国がアジアにお願いして回らねばならない要件があった。

 それは「今後2年間に3兆−4兆ドルという巨額な米国債を発行するので、中国や日本がそれを買ってほしい」という話である。米国の国務長官が政権就任後、最初にアジアを回ったのは、アジアが冷戦体制を強めた1961年以来のことだが、そこには米国の財政的な事情があった。日本では麻生首相が急遽、ワシントンに招待されてオバマ大統領と会うことになったが、低落する麻生政権の人気を支えようとするこの米国からの思いやりの裏にも「呼んであげるから国債買って」という交換条件がありそうだ。

 マスコミが対米従属の日本では「米国債を買うべきかどうか」という話は議論になりにくいが、中国ではもっと露骨に米国債の危険さが論じられている。これまで米国外の投資家が買う米国債は毎年2500億ドル程度で、これは今後2年間に予想される米国債発行額の2割以下だ。米国では今後、消費を控えた国民が貯蓄率を上げるだろうが、そのすべてを米国債購入にあてたとしても、米国債はかなり売れ残る。

 最終的には、連銀がドルを刷って作った幽霊資金で売れ残りを引き取るだろうが、これはドルの潜在力を弱める。米国は、できれば売れ残り米国債を日本や中国に押しつけたい。米国債の売れ残りが目立った話になると、既発の米国債の価格が下がり、大量保有者である日本や中国が困る。だから売れ残りを買うしかないだろう、というのが米国から日中への脅し文句である。

 FT紙は2月20日、今後数日から数週間の間に、米国ではシティやバンカメといった大手銀行が国有化されねばならなくなるような、金融大崩壊的な事態が起きると予測する記事を出した(この記事を執筆中に現実になりつつある)。すでに、いくつもの主要銀行が債務超過に陥っているという。このような指摘を読むと、日本や中国が売れ残りの米国債を買おうが買うまいが、もう米金融やドルの崩壊は止められない感じがする。

 アジア開発銀行ASEAN+3(日中韓)は、2002年に構想されたが棚上げされていた「アジア共通通貨」につながるアジア共通の外貨備蓄を倍増することにした。ドルの代わりにアジア共通通貨を使う体制へと結びつく「チェンマイ・イニシアチブ」が、久しぶりに再推進される。私が5年前から書いてきた「通貨の多極化」が実現しうる。日中は、支え切れないドルを棄ててアジア共通通貨に向かうしかないと考え始めているかのようだ。


自由貿易体制を守れなくなる米国


アジア諸国クリントンに「米国は保護主義に陥らないでほしい」「WTO自由貿易体制を推進してほしい」とも要請した。しかしこれも、米国は守れそうもない。大不況で生活が悪化して反政府的になる米国民をなだめ、怒りの矛先を外国に向けるため、オバマ政権は「アジアなど外国の生産者がダンピングするから米国民が困窮している」というガス抜きをせざるを得なくなりそうだからだ。すでに、米国の景気対策をめぐる米政界の議論では、景気対策で資金を使う際、米国製品を買うことを義務づけるべきだという主張が出て、世界から「保護主義だ」と批判されている。

アジアが米国に期待していることは、安全保障だけではない。アジアが作った製品を米国民が旺盛に消費してくれることが、多くのアジア諸国の親米思考を維持してきた。しかし、米国は今後しばらくは旺盛に消費できない。長期的に、経済力がどの程度まで復活するかもわからない。

 今年1月の自動車販売台数は、史上はじめて中国が、米国を抜いて世界一となった。中国は前年同月比14%の販売減の74万台だが、米国は37%減の66万台だった。今後しだいにアジアの製造業は、市場を米国に頼る必要がなくなっていきそうだ。

 金の切れ目は、縁の切れ目になりうる。米国の余力が失われると、バンドウ流の「アジアの安保はアジアがやれ」という主張が米国内で強まりそうなことと合わせ、米国とアジア関係は今後、目立たないが急速に変質する可能性がある。



世界からの撤退傾向に入った米国


 米国は、アジア以外の世界各地でも、単独覇権戦略をすてて地元勢力に覇権を明け渡し、撤退傾向を強めている。バンドウと似た視点から、米国の世界介入策や覇権主義の愚かさを指摘してきた保守派の米言論人パット・ブキャナンは、米国がイラクアフガニスタン中央アジア、東欧やグルジア北朝鮮中南米などで、反米勢力と対決する姿勢を放棄して不干渉政策に転じていく「長い撤退傾向」に入ったと指摘している。

国は、アフガンではまだ表向きは「これから増派」の姿勢だが、実際には国防総省は「もう軍事だけでは勝てない(タリバンと交渉せざるを得ない)」と宣言しており、これは撤退開始と同義だとブキャナンは書いている。米軍は最近、中央アジアキルギスタン政府から、同国内で米軍が借りている基地からの退去を命じられた。米軍は今のところ退去を拒んでいるが、これもブキャナンは退却の一つに数えている。私流に言うと、キルギス政府が親米から非米・親露親中に転換したのは、米国が外交戦略の間違いを長く放置してキルギスを怒らせた「未必の故意」的な失策の結果である。

 ブキャナンはまた「ウクライナグルジアは、もうNATO加盟を許されないだろう」「米国は、チェコポーランドへの地対空ミサイル配備もしないだろう」と言っている。米国は、パキスタン経由でないアフガンへの補給路を確保するためにロシアに譲歩し、これまでの対露包囲網を放棄しつつあることが、米露間の言動からうかがえるという。

 オバマは、北朝鮮がいくら騒いでも在韓米軍を増強しないだろうし、米国は中南米でも、ベネズエラを筆頭とする反米左翼政権の諸国と折り合いをつけそうだという。これらの転換(挫折)は、オバマ政権になって顕在化しつつあるが、実際の挫折はブッシュ政権下で起きていたと、ブキャナンは指摘している。ブッシュ政権のチェイニー副大統領らが、米国覇権の大木を斧で何度も叩いた末に任期末で去り、謀ったかのように、オバマになってから大木がぐらつきだし、いよいよ倒れそうになっている。

 ブキャナンによると、2000年から08年にかけて、世界経済の総生産額に占める米国の割合は、31%から23%に下落した。1013年には21%にまで低下すると予測されている。中国の生産額は逆に、この間に4%台から9%へと拡大した。この9年間の米国の衰退の速さは、英国が覇権を取って以来(ナポレオン戦争以来)の近現代世界における国家衰退の速さとして突出している。今回の米国の衰退をしのぐ急速な衰退を見せた唯一の前例は、1991年のソ連崩壊だけだという。

 ブキャナンは論文の末尾で、オバマの役目は、戦略的に重要でない地域・分野から、できるだけはやく撤退することで、米国の生産性を早く回復することであると書いている。ここでも、日韓の米軍駐留の余命が短いことが暗に示唆されている。



資源大国になる中国、無策の日本


 対米従属から脱却できない日韓をしり目に、中国はせっせと覇権拡大につとめている。中国の政府系非鉄金属会社(中国アルミニウム)は最近、過大投資がたたって資金難に陥っているオーストラリア・英国合弁の鉱物資源会社リオティント(世界各地にボーキサイト、銅、鉄などの鉱山を所有。元ロスチャイルド系)の資本参加し、別の中国企業は豪州の亜鉛鉱山を買収した。中国の政府系銀行は、欧米が投資を辞めたので困っているブラジル、ロシア、ベネズエラの国有石油会社に対し、石油輸出との交換で、1カ月に総額410億ドルの巨額投資を決めた。

 鉱物資源や原油の価格は、昨夏の高値から一転して安値に陥った。国際金融危機で投資家が金欠になり、世界各地の鉱山や油田会社は収入減と資金難になって困窮している。しかしその一方で、長期的には世界の資源価格はいずれ高騰すると予測されている。たとえばフランスの石油会社トタールは最近、大不況で世界各地の油田開発が止まったため、少し需要が再増加するだけで国際原油価格が急騰するとの予測を発表した。

 いずれ価格が上がるなら、今が投資のチャンスだ。以前は、冷戦型思考で中国からの投資を敬遠する向きもあったが、今や極度の資金難に陥っている多くの鉱山や油田会社は、そんなことをいっていられない。中国さまさまである。世界有数の黒字国である中国は、感謝されて資源の安値買いができる絶好の機会だ。胡錦涛主席はアフリカへ、習近平副主席は中南米へ、温家宝首相はロシアへと、中国首脳は世界を飛び回って資源ショッピングに忙しい。

 中国の資金を受け入れそうな豪リオティントの場合、資金難になったのは、同社の米英人の経営者が昨年までさかんに世界の鉱山を買収し、資源高騰で儲けた金を全部投資に回して高値買いを繰り返したからだ。資源が急落した今、同社は困窮しているが、それは「借金して投資するのが最良の経営だ」という、今や大間違いの烙印を押されているアングロサクソン流の思考を突っ走ったからだ。米国が衰退して中国が勃興するという覇権交代が、ここにも表れている。

 中国の辣腕に圧倒されて足元を見ると、そういえばわが日本も、世界有数の黒字国で、しかも資源のない経済大国である。中国がどんどん世界の資源を安値買いしているのに、なんでわが国は何もせず、内向的になるばかりなのか。その答えは、今回の主題に戻る。日本人の多くが、国家として対米従属しか道がないと思い込み、資源は米国が決めた販路からしか買えないと、時代遅れのことを思っているからである。日本の将来はまず、対米従属がもはや自滅的な国是であると気づくところから始まる。

 米欧の分析者の多くが、21世紀は「アジアの世紀」だと感じている。しかし、そこでいう「アジア」とは大方の場合、中国のことだ。中国はますます誇り高く、世界的に台頭して光り輝くのと対照的に、日本は何とか対米従属を維持しようと息をひそめ、自分から日影の存在を選び、米国の衰退に合わせて自国の身の丈を縮めている。日本はかなりの潜在力があるはずなのに、愚かでもったいない話だ。もはや対米従属論者は国賊である。愛国者、そして米国の精神を尊敬する人々こそ、対米従属をやめることを主張すべきである。



「アジアの世紀」の光と影    2009年2月24日  田中 宇

「アジアの世紀」の光と影    2009年2月24日  田中 宇
よりほぼ全文を転載。


日本のマスコミやNewsweekには、取り上げられていないことを取り上げる、少しニッチなサイトながら、サブプライム・ショックの前兆も取り上げられていたこともあり、信頼できる記事がいくつかあるようです。予言者のような発言はしていないことだけは確かです。


こうしたニュースを見ていて、いつも思うことがあります。今の国内政治でもそうですが、プロパガンダが多すぎるように思います。そうしたプロパガンダを見抜けるように、頭を鍛え、境涯を磨いて参りたい。そうしたものに踏んだ王されぬように、生きていきたいですね。



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