ゲーテの格言 76

弱々しく病的で、実際むしばまれているから、ロマン的なのだ。古いものは(中略)強く生き生きとしていて、快活で、健康だから、古典的なのである。そういう性質に従って、古典的なものとロマン的なものを区別すれば、事は容易に明らかになるだろう。


【(エッカーマンゲーテとの対話」1829年4月2日から 芸術と文学について ゲーテ格言集 P101 高橋健二編訳 新潮文庫

ここで行っているロマン的なものとは、表現主義のことであるように思うのです。ロマン派で生き生き雄弁この上ない作品が沢山あります。ドラクロワの絵画、ブルックナー交響曲、スッペの軽騎兵序曲、シューマン流浪の民、ロマン派に入れられることもあるベートーヴェンの運命、第8、第9、ミサ・ソレムニス、弦楽四重奏第14番、大フーガ。感情表現の激しさは表現主義に近づきつつあるものの、マーラー交響曲第8番。文学では、ヴィクトル・ユゴーなど。皆、強く生き生きとしていて、快活この上ありません。ここでゲーテが記したロマン的なとは、鬱屈・倒錯を徹底して表現する表現主義に他なりません。
文学では、フランツ・カフカ、絵画ではカンディンスキーが有名です。
音楽では、新ヴィーン楽派、ここでは、ヴェーベルンの作品を挙げます。
鬱屈していることこの上ない作品ですので、憂鬱な方は聴かないで下さい。

Anton Webern: Six Bagatelles for String Quartet, Op. 9 (1911-13)(邦題:弦楽四重奏のための6つのバガテル)

http://www.youtube.com/watch?v=yXE8gPrkRkQ&fmt=18

Webern - Five Pieces Op.10(邦題:管弦楽のための《5つの小品》)

http://www.youtube.com/watch?v=6frvl5QQ7kE&fmt=18
この作曲者は、晩年古典の論理に立ち返ってこうした響きの作品を作っているため、抽象的・前衛的な作品、ことに音楽では表現主義の影響をなしに語ることはできないと言えるかも知れません。思想の混沌・戦争の世紀が生んだとも言えるその調べは、ゲーテが語った弱々しく病的で、実際むしばまれているそのものでしょう。偉大な作曲家の方法論の影響を受けたものではありますが、彼らはここまで鬱屈した表現は一切してきませんでした。ロマン主義は、自己の感情表出に重きを置くため、それに傾倒するあまり、表現主義に傾く傾向があるといえるでしょうか。



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