クラウディオ・アッバード指揮ヴィーンフィル演奏シェーンベルク グレの歌を追悼の意を込めて聴く

これは素晴らしい。後期ロマン派ではこのオーケストラのオルガントーンは聴けないと思っていたが、そこからしてまず裏切られた。
木管の合奏で、マルセル・デュプレを彷彿とさせるような、甘美でまろやかなオルガントーンが出ていることに驚かずにはいられなかった。マーラーブルックナー交響曲でも味わえなかった。
録音ですべてのパートが明瞭に聴き取れ、精緻にかつ、歌心に溢れた、さっそうとした指揮が素晴らしい。
人によっては男声でないと嫌という意見の多い、終盤の女声のシュプレヒゲザングも私には好ましかった。
音質が非常にいいためオーディオチェックに使っていいかもしれない。
オーケストラ付きの通作歌曲集といった方向で端正で精緻なリート的世界として演奏しているため、劇性はあまり激しくない。ゲオルク・ショルティが指揮していたならば、ダイナミズムの塊になっていたに違いない。
私は今までインバルの指揮を好んで聴いていたが、これで完全に切り替わった。
また初演で指揮者・作曲者であるシュレーカーが指揮した理由がわかる気がした。
そこには、ドビュッシーラヴェルマーラーR.シュトラウスの影響もさることながら、シュレーカー作品で聴くような音色があったりするのだ。ただ、この頃のシェーンベルクは、ドビュッシーラヴェルに触れていないことが確認できているため、、結果として近接したというべきかもしれない。そういう観点から、後期ロマン派スタイルの集大成にして、シェーンベルクの中でも最も折衷主義な作品かもしれない。これはヴィーンの音楽バブルの集大成にして終焉の一幕なのだなと実感。初演はマーラーの死から1年後。まもなく第1次世界大戦が勃発する頃。自然や心理の描写は、圧巻。シェーンベルクの門下から「トムとジェリー」の音楽を作曲したスコット・ブラッドレー等のアニメ作曲家が多く輩出し、彼らはグレの歌のスコアを携えていたという。そのため、歌がなかったら、ハリウッド映画の音楽と勘違いすること請け負いである。とりわけ動きの速いん場面は。
大作曲家とその音楽がもつ影響 2 古代知恵と「賢者の石」の秘儀!によれば

自我が強すぎる場合、それは幻想と歪みの狂気へと傾きやすい。そのため、この種の悩みをかかえている人にとっては、浄化音楽として効果があるかもしれない。


大作曲家とその音楽がもつ影響 2 古代知恵と「賢者の石」の秘儀!

と書いているが、私はこの曲に限っては、否であると考える。

シュプレヒゲザングが男声であることは残念であるがヴィーンフィルの音色が味わえるのでこの演奏で。アッバードよりも、アンサンブルは劣る印象。
断片であれば、アッバード、近年欧米では受賞ラッシュであったというミヒャエル・ギーレンも聴けるのだけど。
1:32:25から終幕の前奏曲から語り、最後の太陽讃歌の流れは、ネガティヴな感情の爆発、浄化、心の調律の流れに沿うと思う。
規模の大きさだけでなく、美醜、聖俗、善悪、喜怒哀楽、優しさ、絶望も希望も、世界のあらゆるものを包含し全体との関連で意味づけするところ、形而上学的姿勢は、マーラー交響曲に似ている。