ジョージ・セル指揮ヴィーンフィル演奏による魔笛を聴く

モノラル録音ながら、これは素晴らしい。
アンサンブル精度に関しては、後年のベームクレンペラーショルティカラヤン、スイトナー、C.ディヴィス、サヴァリッシュアバドレヴァインの方がいいかもしれない。歌手もそう。ただ、この当時のヴィーン国立歌劇場の名歌手が揃っていたのは確か。
例えば、タミーノに関してはベームベルリンフィルにおけるブンターリッヒを推す人が多い。当時のブンターリッヒの声はりりしいのもプラス。レヴァインザルツブルク音楽祭でタクトをとった時のペーター・シュライアーも負けじと素晴らしい。シモノーが情が走る場面がある。特に冒頭は。ただこのシーンは、大蛇に逃げ回る場面であり、これはこれであり。しかし、声が老けていることが最も残念である。50歳を過ぎているので仕方ないといったところ。
パパゲーノ演じる、ヴァルター・ベリーは素晴らしい。狂言回しも見事。歌パートに関して言えば、ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウも素晴らしい。知的過ぎるかなと思いながらも。ヘルマン・プライ推しの声も多いのだけど、ショルティ盤は夜の女王のアリア除き未聴なので言及できない。
夜の女王で聴いた中だと、ドイテコムとルチア・ポップは好みである。とりわけ声質であれば、ルチア・ポップは。クルベローヴァも素晴らしい。スミ・ジョーシェリル・スチューダーもそれぞれ推しが多いが未聴。エリカ・ケートも声質がよく、第2幕の復讐の炎は地獄のように我が心に燃えは好印象。
パミーナでは、グンドゥラ・ヤノヴィッツルチア・ポップがよかった。セルのタクトで歌ったリーザ・デラ=カーザは、夜の女王寄りかなと思いながらも。親子という設定を考えると、これもあり。
このセルのタクトで弁者を歌ったハンス・ホッターもいい。
侍だと、ペーター・ホフマン、ルネ・コロ、ハンス・ゾーティン推しが多いのだけど、これも未聴。
パパゲーナは、今まで聴いた中では、この演奏で歌ったグラツイエラ・シュッティがキュートで素敵。スミ・ジョーを推す声もあるのだけど、未聴である。
ザラストロだと、クルト・モルカルロス・クライバーの「トリスタンとイゾルデ」のマルケ王同様王者の貫禄で圧巻である。ジョゼ・ヴァン・ダムが続く。クルト・ベーメもいい線をいく。
セルのタクトも実にいい。生き生きと歌っていないという意見もあるが、テンポが早めに由来するくらいのものであり、ショルティクレンペラー以降のオールスターキャストよりも、格が落ちる面々でよくぞ歌手を生かし切ったと感嘆する。クレンペラーよりもアンサンブルがよれている印象が以外にもあるのだけど、それが不思議と暖色系の心地良さをもたらしてとてもいい。これは手兵クリーヴランド管弦楽団以外という他流試合がもたらした最大の効果かも知れない。ここではブルーノ・ヴァルターに負けじと楽器も声も非常に生き生きと歌っている。序曲からヴィーンフィル特有のオルガントーンが堪能できる。これはレヴァインでは堪能できなかったことだ。ジョージ・セルのアンサンブルの美学を貫きながら歌手の特性にあわせて見事なサポートが微笑ましい。史上トップを争うトレーニングで楽団、名歌手を震え上がらせたことで知られるセルであるが、それゆえにここぞという時の後押しを熟知していたに違いない。ただそこに行き着くまでにダウンした人たちが多かったのも確かに違いない。
ヴィーン少年合唱団が歌う3人の童子、3人の侍女のアンサンブルはクレンペラーらに決してひけを取らない。キャストでタレントをとれば上がいくつもあるが、この演奏スタイルは、私にとってバイブルとなった。