伊福部昭

日本におけるオーケストレーションの達人。第2次世界大戦前の若き日に、ラヴェル、ファリャ、ストラヴィンスキー未来派といった作曲家のオーケストレーションを、自らの血肉にして吸収したと言うから凄い。トーン・クラスターを用いた日本の作曲家の第一号でもある。第一号といえるオリジナイティを持っているわけではないため、トップで名前は上がらないかもしれないが、そのオーケストレーションの巧みさは、当時のロシア音楽・フランス音楽を吸収しきったところがある。それは、知っている人から言わせれば、オーケストレーションの最高の教科書と言われている『管弦楽法』という書籍に集約されているとも。佐村河内守氏のオーケストレーションを知る上での旅の中で、今回調べた。

誰もが知っている作品だと、ゴジラが挙がると思う。

今回取り上げようと思う作品は、1941年に作曲されたピアノと管絃楽のための協奏風交響曲

この作品の主要フレーズは、後にシンフォニア・タプカーラ、リトミカ・オスティナータに転用されている。というのも、東京大空襲によってこの作品の楽譜が無くなったことを前提に主要フレーズを転用した作品が生まれた経緯があるため。その後、1997年、NHKの資料室から、パート譜が発見。この曲は、初演当時酷評を受けたこともあり、伊福部昭氏は、お蔵入りしようとしたものの、最終的にパート譜のスコア化を弟子に任せ、蘇演された。個人的には、主要フレーズを転用した作品よりも、色彩鮮やかであり、後の作品にはないメカニックさとの融合が試みられている。

まず、冒頭から日本民謡のようなメロディが聴こえてくる。それも、そのはず。第一楽章の第一主題のメロディは、律音階に基づいてるし、スラヴィンスキーのようなリズム*1になっている。第2主題は、田舎節音階による民族舞曲風。祭囃子調の動機が、コーダではリードを取る。第一主題のメロディは、リトミカ・オスティナータの主要主題、シンフォニア・タプカーラの第一楽章第一主題に転用された。第1楽章はソナタ形式。それも氏独特の主題が再現されるときでもソナタ形式での狭義の再現部は見られない。主題提示→展開→発展的終結、という構成になっている。
パーカッションの連打は、ストラヴィンスキーショスタコーヴィチと類似しているし、佐村河内守作品でもよく出てくる。
第2楽章は、A-B-Aの三部形式。15分19秒からの第2楽章のピアノが出てくる前のメロディ運び、響き、オーケストレーションは、佐村河内守 交響曲第1番"HiROSHiMA"第2楽章の冒頭にも影響を与えていそうな印象。その後のピアノ運びは、エリック・サティ ジムノペディ第1番のようなしっとりとした響きがある。ピアノのバックで聴こえるフルートの使い方は、佐村河内守作品だと、鬼武者 交響組曲ライジング・サン 第2楽章の印象にも近い。主題は、ドイツ音名で言うと、C-D-F-G-Asの五音音階に基づくもの。ピアノは、G1音をひたすら反復する。A部分の主題は、シンフォニア・タプカーラの第2楽章主要主題に転用された。この楽章の風情は、ラヴェル ト短調 ピアノ協奏曲第2楽章の北アジア版と評されている。
フィナーレは、強靭なアクセントが印象的なリズム主題を軸に、第1楽章中間部に出てきた俗謡風の動機、都節音階による長唄囃子調の動機が絡んで盛り上がっていく。ピアノ・ソロには、3度から16度に及ぶトーン・クラスターが多用される。
以下、CDの解説を基に、自分の言葉でつづったもの。

一通り聞いてみて、この記事を読んだ方々は、何を感じるだろう。私は、ストラヴィンスキー、執筆時点での電子音楽作品、ラヴェル、ファリャ、未来派辺りの作品のオーケストレーションを、佐村河内守氏は、氏の著作を通じて体系的に学んでいても違和感はないように思えるし、ストラヴィンスキーバルトークの結びつきを考えるうえで、非常に今日深いと思った。
個人的には、武満徹よりも好きかもしれない。それは、私が、メシアンの理解が遅れていることと関係があるかもしれない。こういった形で、伊福部昭の音楽で出会えたことに深く感謝。

*1:5拍子と7拍子を組み合わせた