佐村河内守プロデュース新垣隆 ピアノ・ソナタ第1番を聴き込んでみて

初めに一言、これぞ、アラン・ペッテションの先にある音楽という印象である。

CD付嘱の野本由紀夫の解説も交えながら綴る。

第1楽章
248小節からなるソナタ形式
4つの動機で、作曲されている。
主調は、二短調。しかし、ほとんどが無調で、調的な部分は、むしろ無調があってこそ「平安」あるいは、緊張の「弛緩」として機能。
まず、同音を連打する鐘の音を思わせるモティーフが表れ、序奏部のGraveへ。3度上行2度下降のモティーフが表れ、すぐにそのモティーフが反行型で現れる。その後、形を変え、何度も現れ、跳躍と順次下降のモティーフが表れる。
提示部は、49秒からの、左手の波のような半音階的な動きから幕を開ける。さきほどあげた3つの動機が組み合わさったものが、提示される。
1分32秒から3度上行2度下降のモティーフ、跳躍と順次下降のモティーフ、同音を連打する鐘の音を思わせるモティーフの順に再提示。同音を連打する鐘の音を思わせるモティーフの直後の恩恵が、交響曲第1番の「運命の主題」とよく似ている。「運命の主題」そのものは、半音階主体のモティーフのため、3度上行2度下降のモティーフと親和性高し。鐘モティーフは、同音連打へ拡張されもう一度主要主題が表れると、ロ短調の副主題が表れる。このメロディは、オクターヴの上昇跳躍を含むのが特徴。テンポも穏やかなモデラートに。
テンポがVivoでアップし、3度上行2度下降のモティーフとその反行型と、副主題の反行型が組み合わさり進行。次第に3度上行2度下降のモティーフが中心になっていくが、連打音が加わる。バスが、ファ#になりコデッタ。3度上行2度下降のモティーフとその反行型が基になっている。静まり返ると鐘の音が聴こえてくる。楽譜には、反復記号が書かれているが、初演を含めてソン・ヨルムは、繰り返しすることなく、展開部へ進めている。
展開部は、ブリッジから始まる。ゆったりとしたテンポで、跳躍と順次下降のモティーフが左右両手に連続した後、アルペジオによるカデンツァ。低音で、ゆっくりとした同音連打が静かになると、展開部へ。跳躍と順次下降のモティーフがメイン。初めに、カノンとして次いで縮小されアルペジオのような連続して、もう一度、原型に近い形で提示。テンポが上がり、跳躍と順次下降のモティーフの反行逆行型が表れ、よりあわただしく。テンポは、Vivoへ。3度上行2度下降のモティーフと跳躍と順次下降のモティーフが次々と押し寄せ、同音連打のトレモロでピークへ。Agitato(切迫して)で。3度上行2度下降のモティーフが金出られるたびに1音づつ上行しながら奏され、テンポは、Prestoへ。トリトヌスを含んだ鐘のモティーフの展開の同音連打
に収れんしていき、左手が書こう半音階になると再現部へ。
再現部は、調性が曖昧だった序奏と提示は、はっきりと二短調で提示され、推移部なしに、再現されていく。副主題も二短調で提示される。
コーダは、二短調が確立してから。3度上行2度下降のモティーフが変形して連続して現れる。モノローグとなってから交響曲第1番の「運命の主題」が表れる、「ラ」音による鐘モティーフが静かにならされる中、pppで終わる。

第2楽章
187小節。
第1部 半音階による新主題が提示。3度上行2度下降のモティーフ、跳躍と順次下降のモティーフ。「運命の主題」と同一DNA。
鐘の音も、シンコペーションで鳴り響くが無調的。アルペジオの拡張とド#のトレモロの後、半音階による主題がエコーのように響く。
第2部 第1楽章副主題の断片で始まる。そして管理された偶然性のもと、左手の伴走音型とは無関係なテンポで、右手は「鐘モティーフ」を鳴らす。
第3部 第1楽章主要主題と、跳躍と順次下降のモティーフと半音階による主題による移行部。
第4部 テンポアップして半音階による新主題が提示。その後突然、第1楽章展開部へのブリッジが奏され、音量はフォルティッシモ、テンポはPrestoへ。そのまま突然ド#の「鐘モティーフ」が強打され、どんどん圧縮へ。
第5部 半音階による新主題が低音へと激しく崩落すると、「鐘のモティーフ」が毀謗を打ち砕くようにフォルティッシッシモで打ち鳴らされる
第6部 弱音の調性音楽。この穏やかなメロディは、第1楽章 跳躍と順次下降のモティーフと交響曲第1番「運命の主題」からなっている。
第7部 似た雰囲気で、アダージョより少し速め。第1楽章の3度上行2度下降のモティーフをメインに、鐘の音もかすかに聴こえる。
第8部 変ロ短調による第1楽章の副主題の回想。
第9部 第1楽章の3度上行2度下降のモティーフとその反行型の連続でカデンツァも構成。
第10部 切迫して。第1楽章の3度上行2度下降のモティーフとその反行型で構成。第1楽章4:15と対応。
第11部 第2楽章の独自主題に戻る。跳躍と順次下降のモティーフも登場して、半音階下降が奏でられると、ふたたび偶然性も取りゑれた音の帯の上に、ffffで、鐘モティーフが連打。この響きの中から、ハンマーで弦を打鍵しないように静かに鍵盤を抑える奏法で、「ミ♭・ラ♭・ド・ミ♭」の長三和音が浮かび上がる。そこから第1楽章副主題のメロディが表れ、鐘が静かに打ち鳴らされて、3小節のブリッジへ。
ブリッジ交響曲第1番「運命の動機」と第1楽章 跳躍と順次下降のモティーフによるモノローグ。

第3楽章
トッカータ風に。これまで出てきたすべての主題・動機の集約が行われる。広い意味でのロンド形式
半音階で構成されたトッカータ(フーガ)主題が表れ、すぐに拡大される。そのご、ド#の連打が続き、フーガの第2部へ。ここでも同音連打が聴こえてくる。
右手は、第2楽章の独自主題、左手は、第1楽章の3度上行2度下降のモティーフを。第2楽章の7:34の再現。連打とトッカータ主題も組み合わされ、連打はどんどん加速していく。
減速してトッカータ主題が奏でられ、同時に、交響曲第1番「運命の主題」も進行する。
突然テンポが上がり、トッカータ主題と「運命の主題」、連打(鐘)、第1楽章の跳躍と順次下降のモティーフによる最大の主題労作部分へ。第1主題の副主題も回想され、その後、第1楽章の3度上行2度下降のモティーフによる第1楽章5:48秒の展開的回想へ。トッカータ主題が静かに顔を見せると再現部。
鐘モティーフが拡大型でも出てきて、連打。トッカータ主題は、第1楽章の跳躍と順次下降のモティーフ、第2楽章の独自主題と見分けがつきにくい形へ。第1楽章7:57付近は、この状態を先取り。
その後、管理された偶然性の処方で、右手に聴こえるのは第1楽章の主要主題。6:56から一気にクライマックスに向かい、「轟音のような耳鳴り」
(激しい同音連打)fffffで、絶望の淵に突き落とされると、鐘が遠くで鳴り響く。
第2楽章の独自主題の反行型と第1楽章の跳躍と順次下降のモティーフが記憶の中であるように立ち現れると、第1主題の副主題が表れる。
最後は、ハ長調、嬰へ調が同時に鳴り響き、ドの鐘の音とド#の鐘の音が折り合い悪く鳴り響く。最後は、pppppで、救われることなく終わる。

初演の時は、実は睡魔の戦いでもあった。初演の時、すでに起床16時間。それでも睡魔で意識がなくならなかったのは、鐘のモティーフによる同音連打の影響はかなり大きい。
CDが届いてからとりわけ第3楽章を中心に聴いた。そこで、感じたものは、おぞましい。音量が小さくても、聴くだけで、体力が抜き取られていくと言う感触であった。
この曲で表現されている、苦闘、闇は、交響曲第1番と比べても、アラン・ペッテションのベクトルに近接。
一応長調ではあるのだが、復調であるため、随所で鋭い不協和音が聴こえてくる。
曲の疲労感であれば、手元のCDの中でもTOPである。佐村河内作品の中でもとびきりベルク、バルトークショスタコーヴィチ、ダラピッコラに近接した弦楽四重奏曲第1番よりも振り切っている。

深い闇を吹き切って見えたものは、見えるか、感じ取れるかどうかの小さくも、たしかにそこある光であり、希望、そんな一曲だ。