モーツァルトを科学する

 私の聴覚教授法には、母親の声や音楽などの音素材を使っている。その音楽とは、モーツァルトのものばかりである。もちろんわたしは、音素材を選択するに当たり、録音可能なもの全てを対象とした。騒音から楽曲、それも古典音楽・近代音楽・伝統的な音楽や現代音楽まで。更に、西洋以外の音楽も使えるかどうか試してみた。特に極東・インド・アフリカ音楽など。その結果、身体と心への効果という点で、どれも、モーツァルトの音楽が私たちにもたらすレベルにはとても及ばないことがわかった。しかし、だからといって調査をやめるつもりはなく、今まで知らなかった曲が手に入るたびに実験を行っている。


モーツァルトの音楽は、どんな効果をもたらすか
 そのようなわけで、聞き取り、読み書き、話し声、歌声を治療するという試みをいろいろ続けた結果、残ったのはほとんどモーツァルト一人である。彼の音楽は、普遍相に達していると思う。それは誰にでも、どこででも効果がある。フランスでも、アメリカでも、ドイツでも、バンツー族のところでも、北のアラスカから、南のアマゾンまで、どこでも。モーツァルトの音楽は異論なく、プラスの効果を起こす得点の高い音素材である。


「治療師」モーツァルト
 モーツァルトの音楽は、他の音楽家にはない効果がある。
彼は例外中の例外で、聴く人の心と体をリラックスさせ、いやす力を持っている。唯一モーツァルトのフレーズには、無垢で軽く、豊かで真心がこもったところがある。そのフレーズは、聴くものを夢中にさせ、普段の状態とは全く違ったところに運んでくれる。


モーツァルトの持つ特殊なリズム
 他の作曲家にはないほどの新鮮さ、穏やかさ、若々しさがある。そしてその若さを保つ能力にこそ、彼の音楽的表現の特徴があるといえそうだ。
 この前代未聞の人物は、音楽に浸された幸福な母親の妊娠期を通して、すでに出生前から、生理的なリズムを神経組織に刷り込まれていたのである。それは、本物の普遍的な宇宙のリズムといってもいいだろう。(中略)彼はこの音楽という手段を、自分自身を表現するためよりもむしろ、よそから受け取ったものや、彼自身の心の奥底で感じたことを表現するために使った。そこにこそ音楽の本質的なものがあって、精神と記憶を揺り動かす。それは、規則正しいリズムの微妙な働きのおかげであり、時間はモザイク模様の調べに切り取られ、思考そのもののように流動的である。

モーツァルトを科学する アルフレッド・トマティス著 窪川英水訳 日本実業出版社


これは、今日実際に図書館から借りて読みました。ベートーヴェンモーツァルトとの出会い以降、その時の落胆からモーツァルトの音楽を聴かないようにしたとの推察に驚きました。
 同質の原理を考慮して書いていないのが、唯一の難点。そほど関係ないと考えているようです。モーツァルト・ブームにも影響を与えているこの本。読んで、損はないと思います。知的好奇心を満たしてくれた一冊でした。



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